朝野新聞



朝野新聞 N001

朝野新聞 第千三百七十一号甲

明治11年(1878)3月18日 38×25

		
"広島(ひろしま)県下(けんか)備後国(びんごのくに) 笠岡(かさをか)町に住(す)む
川上(かハかミ)松助といへるはハ妻の名を春とよび
明治二年の頃よりして互(たが)ひに浮気(うハき)の
転(ころ)び合ひ友白髪(が)迄(まで)約束(やくそく)し夫婦と
なりて九年ごし常(つね)に夫(をつと)が大酒を
好(この)ミ女狂(ぐる)ひの放埒(はうらつ)に笑(わら)つてくらす日ハ
少く泣々(なくなく)数(す)度の異見(いけん)さへ聞いれも
なく打たたき手荒(あら)き事の多くして
止(とま)る気色(けしき)もあらざる故(ゆゑ)所詮(しよせん)行(ゆく)すゑ
覚束(おぼつか)なしいかがハせんと心を悩(なや)まし暫(しば)し
歎(なげ)きに沈(しづ)ミしがきつと思案(しあん)を定めつつ
昨明治十年十一月五日の夜(よ)半に松助が
例(れい)の大酒に酔(ゑい)伏(ふし)たる折こそよしと出刃(ば)
包(ばう)丁逆(さか)手に持て只(ただ)一ト突(つき)咽喉(のど)ふえ深(ふか)
く貫(つらぬ)ケバ松助ハ七転(てん)八倒(ばつたう)其侭(まま)息(いき)たえ
果(はて)けれバ同じ刃(やいば)に我(わ)が胸(むね)へ突(つき)立しか共
死にきらずその筋(すぢ)にて療治(れうぢ)をくハへ
全快(ぜんくわい)の上去(さ)る十五日十一年二月遂(つひ)に梟首(きやうしゆ)に
所(しよ)せられたり "		

朝野新聞 N002

朝野新聞 第千三百七十一号乙

明治11年(1878)3月18日 38×25

		
"昔(むかし)ハ或藩(あるはん)の士族(ぞく)なりしが今ハ小網(あミ)町辺(へん)の箱屋にて
親(おや)ハ先年没(ぼつ)し長子何某(なにがし)が跡(あと)相続(ぞく)せしが其頃
旧(もと)同藩(はん)の娘に恋こがれ女房にしたいと思(おも)ひしが
果(はた)さず遂(つい)に病死なしけるにぞ其(その) 弟(おとと)が順(じゆん) 養子(やうし)と
なり不計(はからず) 兄(あに)が恋(こひ) 慕(した)ひし娘を世話する者がありて
妻(つま)に迎(むか)へ夫婦(ふうふ)睦敷(むつましく)くらす内弟もいつとなく病つき
折々(をりをり)幽霊(ゆうれい)が出る故(ゆゑ)定めし兄ならんと思ひの外親父(おやぢ)
の亡霊(ぼうれい)出かけて曰く其方が妻ハ兄が念のかかりし
女故(ゆえ)此侭(まま)差置(さしおか)バ身の為にならず早々離縁(りえん)すべし
と云ふ御尤(もつとも)の仰(おほせ)なれど妻にも其よし御申聞被下
たしといふに或(ある)夜夫婦(ふうふ)の居る処へ出細かに説得(せつとく)し
且(かつ)我(われ)と兄(あに)の追(つゐ)福の事杯(など)ハ堀江町二丁目の差配(さはい)人
某(それがし)に相談(だん)すべしと云終りて消失(きえうせ)けれバ早速彼
方へ至り法事も済し其れから離縁の談判(だんぱん)中
との事其中(そのうち)一ツの不審(しん)といふハ右差配人の親(おや)ハ別(べつ)
居(きよ)して其妻ハ今離縁(りえん)をされかかつて居る箱やの
妻の実母(じつぼ)にて夫(をつと)に別(わか)れて後(のち)娘を箱やへ縁(えん)づけ
自分ハ差配人の親の妻となりたるなり幽霊(ゆうれい)の代
理といひチト不都合(つがう)な事だとの噂(うわさ)なり "		

朝野新聞 N003

朝野新聞 第千三百八十六号

明治11年(1878)3月18日 38×25.5

		
"可愛々々(かあいかあい)の睦言(むつごと)も恋(こひ)と忠義(ちうぎ)の二道(ふたミち)を
尽(つく)す誠(まこと)も思案(しあん)の外貴君(おまへ)ゆゑなら
命(いのち)でも何(なん)の惜(をし)かろ揚(あげ)屋町毒(どく)と知(し)りつ
過(すご)す酒野(○)む(○)ナら(○)おのミと盃(さかづき)の数(かず)重(かさな)りて
花(○)れじと夜るの契(ちぎ)りも当麻(たへま)なく花(○)に
嵐(あらし)のさハりとハ其(その) 花(はな○)山(○)がふミこんで何(なん)ぼ
主(しゆう)人でも亭主(ていしゆ)を引とめとんだ御用に
つかふとハおから山吹(ふき) 恨(うらミ)の山々おかくごあれと
姫君(ひめぎミ)へ切(きつ)てかかれバ傍(かた)へより我(われ)も源(○)家(け)の
忠臣(ちうしん)なり左(さ)ハさせまじと大美濃(ミの)の鎗(やり)小
脇(わき)に抱(かい)こミ大音(おん)に是(これ)まて女房(にようぼう)無礼(ぶれい)
なり抑(そも)当家(とうけ)にハ汝(なんぢ)も我(われ)も恩(おん)を受(うけ)たる
主家なり去(きよ)年つづいての両親(しん)死亡(おかくれ)
ありし其後(そののち)ハここぞの恩(おん)をかへさんと
後(うしろ)見なして昼(ちう)夜の勉強(べんきやう)忠義を尽
すとしらざるかト大紛紜(もんちやく)もやうやうに
仲裁(ひと)がはいり一ト先その場ハしづめし
とぞ両手に花(○)をながめると終(つい)にハ
こんな事になります "		

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